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読評 「明日の記憶」
 

主人公は50歳の広告マン。仕事に支障がでるほど物忘れがひどくなったのは、若年性アルツハイマーに罹っていたからだった。
だんだんひどくなる病気の経過、日常生活をしてきた過去の確かな記憶を失うまでを、主人公が『私』という一人称で物語を展開する。

タイトルの『明日の記憶』は、記憶を失ってからの先が『明日』ということだろうと思うが、その未来がどうなるかは分からない。それが、『記憶』を失うということだろう。
しかし、そのことから不幸に導かれて人生もオシマイかというと、主人公はその喪失感を乗り越えて、そうではない何かを見出そうとする。作者の意図は分からないが、私は最後のシーンを読んでそう思った。

実は、私はこの小説を読む前に、これを原作とする映画をDVDで見た。渡辺謙が主人公で、彼の初主演作だったようだ。妻役は樋口可南子でこれもいい配役だった。映画を見て更に原作が読みたくなるのはめったにないが、渡辺謙が原作に感動してプロデュースしたくらいだから、映画は良いできばえだった。

映画の脚本と原作は若干違いがあるが、この小説が山本周五郎賞(2006年)をとっただけのことはある。同じ年の本屋大賞は恩田陸「夜のピクニック」で「明日の記憶」は第2位だった。しかし、恐らく読者層の幅の広さからいえば、こちらが1位でも良かったかもしれない。直木賞では候補作にもなっていないのが不思議だ。

作家の緻密な構想も伺えて面白い。たとえば『・・・ざんねんだが一人で所沢までゆく自身がない・・・』
と書かれたところがあるが(単行本269ページ)、私は最初これは『自信』の誤植かと思った。もしかしてそうかもしれないが、ここは主人公の備忘録と名付けられた日記の部分で、漢字さえ忘れていくシーンとして、作者はそっと誤字を入れたのだろう・・・と思う。

ちなみに、この小説は2005年に発刊されている。作中でアルツハイマーの治療薬は、10年後ほどになれば出ているだろうという場面があったが、今は2012年どうなっているのだろう。
最近、私は物忘れをするのだが・・・(~_~)
author:u-junpei, category:読評, 19:40
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