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読評 「天翔る」
 

まだ「春眠暁を覚えず」の言い訳が効きそうな頃、寝床で遅い午前のNHKラジオを聴いていた。スッピンとかいう番組のゲストに、作家の村山由佳が出ていて、彼女の小説のことで盛り上がっていた。村山由佳の声は若く元気で、新しい本の内容も私の眠い頭の気をひいた。

それによると、女性の性を描いた「ダブルファンタジー」を書いた村山由佳は『黒村山』で、それ以前の「天使の卵」など若者向けの作品は『白村山』なのだそうだ。白と黒は対比で言っているのだろうが、「天翔る」という新しい作品は『白村山』で書いた自信作だという。

私は、「ダブルファンタジー」は3つの賞を取ったと喧伝されるほどには評価していない。柴田練三郎賞・島清恋愛文学賞・中央公論文芸賞だが、いずれも渡辺淳一が選考委員をしている。そのジャンルの御大が推薦してるわけだから、なんだかなあ・・・と思っている。
そんな「ダブルファンタジー」系列の作品を『黒村山』というのは、なんだか妙に言いえているようで面白い^^;

私は彼女のいわば『白村山』小説にはいるのであろう「翼」は、彼女の小説の内では特に良い作品だと思っていて、このブログでも取り上げた。

http://blog.kiriume.com/?eid=1222690

だから、「天翔る」を作家自らが『白村山』として、構想に10年をかけたというなら、きっと面白いだろう、と期待して読んだ。

この小説は、父親の突然の死や、イジメで不登校になる主人公まりもが、馬の魅力にひかれ、乗馬耐久競技(エンデュランス)に挑戦していくようになる小中学生時代の成長物語になっている。
まりもを善意の大人たちで包む作品の雰囲気は、イジメ問題が描かれてるせいか、重松清の小説に似ているように思いながら読んだ。

小説の最後には、16歳になったまりもが、アメリカで開催されているテヴィスという、100マイル(160キロ)を乗馬で駆ける競技に挑戦し、過酷な状況で完走を成し遂げる。
私はそういうエンデュランスという乗馬競技があることを知らなかったので、その描写はたいへん興味深かった。

作品全体からも、日本ではあまり知られていない、このエンデュランスの存在を世間に知らせたいとする作家の意気込みも伝わってくる。
ラジオ番組で、村山由佳が『牛の目は悲しいが、馬の目は優しい』と言っていたが、そんな前提があってこの作品は生まれたのだろう。

小説としては、前半を読んでいる内は、内容も文章表現も若者向けのようで気になった。作品としては、確かに『白村山』なのだろうが、「ダブルファンタジー」を書いた作家としては、なんだか物足りなく思うのは、読者の勝手のなすワガママだろうか^^;
author:u-junpei, category:雑記, 16:30
comments(1), trackbacks(0), - -
Comment
「翼」大好きです。
読了後、涙が止まりませんでした。
父を亡くして喪失感の大きかった時に
生きる希望や勇気を漠然とですがもらった本でした。
ここで「翼」を特に良い作品だと書かれていて嬉しくなりました。
jas, 2014/09/03 3:26 PM









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