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映画 「柘榴坂の敵討」
 

江戸の地理は全くの不案内なので、柘榴坂という坂道は、大老井伊直弼が暗殺された桜田門の付近にあったのかと思っていた。調べたら、品川駅からちょうど西側に上る道だそうだ。柘榴の木があったのでそう呼ばれたのだろうが、この映画では、柘榴坂の雪の中で咲いている寒椿が、人としての生き方の象徴的な意味あいで描かれている。

映画のクライマックスは、この品川駅から人力車に乗る雪の坂道だ。元彦根藩士志村金吾を乗せた人力車を、車夫の直吉こと元水戸浪士佐橋十兵衛が引く。このときの双方が仇討ちの当事者だと探りあう緊張感がたまらない。

上りきったところで、金吾は敵討を宣するわけだが、懐から取り出した袱紗に包まれた短冊を、傍らの石の上にそっと置く。それは、金吾が井伊直弼の近習に取り立てられたとき、直弼が鶯が鳴くのを待って詠んだ和歌をその場でしたため、金吾に下されたものだ。その際に、金吾は命をかけて殿を守りますと誓いを立てている。

駕篭のそばについていながら、主君を討たれてしまった金吾は、家老の命で下手人を仇として追い続ける。妻が働いて助ける貧しい生活だが、13年間も仇を追い続けたのは、武士としての義だけではなく、殿様のことが大好きだったのだろう。この辺を描く映画は、安政の大獄で悪役とされる井伊直弼像とは大分違っている。

敵討は明治6年の仇討禁止令が出された当日に行われる。既に世の中は大きく変わってしまっているが、このときまで金吾は、髷を結い羽織袴姿で大小刀を差している。これは敵討が実現するまで、侍の義に生きる姿を貫いているということなのだろう。

映画の撮影中、主役の中井貴一と阿部寛は、お互いに会話どころか顔も合わせないようにしていたとか。敵討の迫真に満ちたシーンでは、そうして作られたであろう2人の緊張感が伝わる。

映画では夫婦の絆や、世の中がどんなに変わっても、変わらぬ人や世間の情なども描かれ、久し振りに感動を覚えた良質の映画だった。浅田次郎の原作本を読んでみたいと思う。
author:u-junpei, category:映画, 20:40
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