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読評 「アルカイダから古文書を守った図書館員」(ジョシュア・ハマー 著  梶山あゆみ 訳)

 

西アフリカにマリ共和国がある。首都バマコから東に1000kmほど行ったところに、トンブクトゥという古い都市があり、このノンフィクションはここから始まる。

 

サハラ砂漠のオアシスにあるこの町は、15,6世紀にはマリ帝国などの中心地として大いに栄えた。西洋人があこがれて、黄金境とも呼ばれたらしい。大学がありイスラムの学問が発展し、多くの図書が写本されていた。この本でいうところの「古文書」で、イスラムの宗教・歴史分野のみならず、地理や天文にも及び、その数は現存するもので38万冊以上にのぼるという。

 

それらはアラビア語など多言語で手書きされ、美しく装飾された古文書は、砂漠の民が密かに、あるいは宝物のように家蔵していた。だが、砂漠の砂にまみれ、あるいはシロアリに食われ、いずれ朽ち果ててしまう運命だった。

 

20世紀後半ごろ、古文書の保存活動が始まった。のちに個人でも古文書図書館を設立する、アブデル・カデル・ハイダラもそ重要な一員だった。

 

2010年代の一時期、イスラムの過激テロ組織がこの町を支配した。自分たちの原理主義に反すると思えば、手加減なく暴力で支配し、逆らう者の手足を切り落とし、命を奪うことさえ何のためらいもない。

彼等は自分らの原理主義に反する一切を認めなかったから、古文書の価値など、さらさら理解するつもりはなかったろう。実際彼等が退却するときに、古文書の一部を燃やしている。

 

古文書を守るために、図書館員とその協力者は、トンブクトゥから比較的安全な首都バマコまで1000kmの道のりを、舟や車を使って秘密裏に避難させることにした。途中、過激集団やマリ政府軍さえからも妨害される命がけの行動だった。

 

彼等は最終的に、20数万冊を無傷で避難させることに成功した。それに用した何十万ドルという多額の費用は、欧米の財団などからの寄付金でまかなわれている。そういう点でもアフリカと日本は遠いと思った。

 

しかし、2013年にはアルジェリアで、日本の技術者10人を含む外国人37人がイスラム過激派に殺害されている。イスラム過激テロはアフリカや欧米の出来事だけではない。日本にもいくらでも関係してくるし、対岸の火事視するのは誤りなのだ。

 

この本が書かれた動機は、古文書の避難がどのように行われたを描くのがメインだったろう。だが、当時のトンブクトゥをめぐるイスラム過激派の動向が詳しく描かれ、むしろその方面で多くのページが割かれており、そこにジャーナリストとしての著者の真骨頂があるように思えた。

 

訳者のあとがきに、著者の次のような言葉が引用されている。

『私たちは、一部の暴力的なイスラム教徒の行動を見てイスラム全体に反感を抱きがちだが、イスラムの中には、知性や多様性や世俗的な思想を肯定し、詩や愛や人間の美しさを賛美する宗派もたくさんある。本書を通じてそれを知ってほしい』

 

訳者は、これに続き訳者の感慨を述べている。

『日本から見るとマリもイスラムも、私たちの日常と接点の薄い遠い世界でしかない。しかし、もし日本の歴史的な建造物や貴重な考古資料が、いきなり乗り込んできた武装勢力に破壊されたら、あるいは破壊されそうになったら、私たちはどうするだろうか。おまけに理不尽としか思えない罰則を押しつけられて、それに従うことを強制されたら、そうやって置き換えて考えてみると、ハイダラや仲間たちの勇敢さと情熱にあらためて感嘆させられると同時に、今も異国の地で続いている過激派の蛮行ももう少し身に迫って感じられるのではないか。この本は、そうしたニュースの裏側を想像し、イスラムへの理解を多少とも深めるための、手がかりをくれる一冊ともいえるだろう』

 

読み終わって、まったくその通りだなと思った。だが、相互理解が出来る間と出来ない間とがあるだろう。

 

最近、北朝鮮とアメリカの間で、これまでの戦争前夜のような激しい言動とは180度異なる外交が展開されようとしている。トランプ大統領は大いに乗り気のようだ。

だが、私は懐疑的に思う。独裁という国家体制はイスラム原理主義と同じような気がしてならないのだが・・・

author:u-junpei, category:読評, 17:17
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