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読評 「父子ゆえ」(梶よう子 著)

 

「摺師安次郎人情暦」という副題がついている。時代背景は水野忠邦の天保の改革の嵐が吹き荒れ、風紀が厳しく取り締まれた直後の江戸。副題の通り、錦絵版画の摺り職人安次郎と、その周囲の人々との関わりを、人情味あふれる語り口で描いている。したがって、読者は安心し、時にはホロリとしながら、作家の描く時代小説世界に浸ることが出来るに違いない。

 

この小説は、五話の短編連作で構成されている。本の題名の『父子(おやこ)』の様子がより豊かに描かれるのは第三話から。

5歳の息子信太は母親を知らない(出産後に死亡し、母の実家の祖父母に預けられていた)。父親安次郎との交流は2ヶ月に一度、父親が訪ねてくることだが、将来の夢は彫師になり、自分が彫ったものを摺師の父親が摺ることだった。

 

ところが、従兄弟と遊び中に右親指を骨折してしまい、それを機に、父親との生活をするようになる。この際の安次郎と義父母や義兄との心理が、ぎこちなくなる手前で抑えられる様子が良く描かれている。

信太は5歳にしては、気配りや言動がしっかりして、今どきの子と比べると賢すぎるような気がするが、江戸時代の子どもしつけは、庶民においてもしっかりしていたのかも知れない。

対して、安次郎の父親としての考えや振る舞い、一流職人としてのたたずまいの描かれ方も好感が持てる。

 

それらはいわば、作家世界であるから、その作風は梶よう子の人柄でもあるに違いない。また、錦絵の絵師から始まり、完成に至るまでの彫師や摺師についての作家の知識は、とても完成度が高いように思った。

私はこれまで彼女の小説は知らなかったが、歴史小説の分野に新たにフアンになる作家を見出したようで、読後感は爽やかだった。

author:u-junpei, category:読評, 18:18
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