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読評 「刑事のまなざし」(薬丸 岳 著)

 

4月18日のブログで、薬丸岳の「刑事の怒り」を取り上げた。最初、私はその本が刑事・夏目信人シリーズ4作目の短編連作集であることを知らなかった。

その中では、夏目の娘が4歳の時に犯罪被害にあったこと。娘はその後10年間、植物人間の状態で入院していること。それらは書かれているが、その犯罪がどんなものか、その事件の後で夏目が刑事になった動機、それ以前の夏目の職業が何であったかは書かれていなかった。

 

夏目は、私が刑事のイメージに持つのとは正反対で、こう言っては本物の刑事さんには失礼だが、ドラマであるように犯罪者の取調べで大声を出したり、机を叩いて脅すようなヤクザまがいの強面でなく、理知的で穏やかな雰囲気がある。

それが、私にシリーズ第1作目の「刑事のまなざし」を読もうと思った動機になった。

 

この本では、7つの短編が納められている。実際の発表順とは違うようだが、本の題名にもなっている第7編の「刑事のまなざし」で、娘が被害者になった犯罪と、その犯人が明らかになっている。夏目が少年鑑別所の法務技官をしていたことも、第1編の「黒い履歴書」で明らかにしている。

 

この法務技官というのは、少年犯罪者の犯罪にいたった事情などを、生い立ちや置かれている環境などを調査し、処遇を判別する仕事のようだ。夏目の刑事らしからぬたたずまいの様子も、なるほどそういうことかと納得できる。いわば、シリーズ第1作本からの薬丸フアンなら、そうした背景をよく承知のうえで短編シリーズを楽しめたに違いない。

 

この本に納められた7つの短編はどれもミステリーとしての視点が面白い。中でも印象深かったのは第5編の「オムライス」だった。これは看護師で中学生の息子のいるシングル家庭を描く。母親である看護師が入院患者だった男と、再婚前提で付き合うようになる。ところが、男は母子のアパートに転がり込み、ヒモ同然の暮らしを始める。

ここまでは、世間によくある話のように思えるが、その男がアパートの火事で焼死する。息子が犯人として名乗り出る・・・

事件の背景には、恐ろしいまでの性の快楽があるのだが、ミステリー小説だから、それ以上は言わないでおこう。

ちなみに、「オムライス」は2007年に日本推理作家協会賞(短編部門)候補になっている。

author:u-junpei, category:読評, 17:17
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