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読評 「天使のナイフ」(薬丸 岳 著)

 

死刑制度を必要とするか、あるいは廃止すべきか。それぞれ論拠がある。簡単に結論してしまえば、死刑は無い方が良い。

だが、残虐に殺害された被害者の肉親の、犯人に対する憎しみは、抑えがたいものがあるに違いない。犯人を自分の手で殺してやりたいとさえ思うだろう。

 

さらに、この殺人犯が少年法で守られてた中学生で、刑事罰は問えず、その処遇や更生の過程さえ被害者側には一切知らされないとしたら・・・

また、加害者の贖罪とは・・・

それが、この小説のモチーフにもなっている。

 

薬丸岳の「夏目刑事シリーズ」をブックオフに探しに行ったのだが、本作は2005年の江戸川乱歩賞受賞作とあったので購入した。

”ついでに”のつもりだったが大当たりだった。読み終わり、久しぶりにミステリーの傑作に出会った感がした。

 

コーヒーショップを経営する主人公桧山貴志は、4歳になる娘愛美と2人の生活をあわただしく送っている。4年前に、妻祥子を13歳の中学生3人組に自宅で襲われ殺されたのだった。

その犯人だった一人が何者かに殺されて、桧山に疑いがかけられる。桧山は祥子が殺されたとき、少年たちを殺してやりたいとテレビ映像で泣き叫んでいた。

 

その気持ちは、今でも変わらないのだろうが、身の潔白と犯罪の真実を追って、桧山の犯人探しが始まる。その間に、祥子の事件につながる二重三重の殺人犯罪が明らかになっていく。

 

ミステリー小説だから、これ以上の種明かしはしないが、特に「終章」は、人権派弁護士の仮面を暴いたところで、全てが繋がる。それまでの緻密な構成は、この小説の完成度を高めている。

文庫本なので、解説(高野和明)がある。それによると、乱歩賞を決めるときに圧倒的な支持があったそうだ。なるほどとうなずけた。

author:u-junpei, category:読評, 19:19
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