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読評 「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ 著)

 

本書の冒頭シーン、主人公森宮優子は高校2年生で、担任の向井先生との進路相談の場面から始まる。

先生は「困っていることや、つらいことはないか」と優子に尋ねる。

 

読者は、優子が3歳で実母を亡くし、小学2年生のときに2人目の母や、実父を含め3人の父親に育てられた来たという知識があるから、先生が聞きたいところも分かる。

優子は困っていることなどは全くないと答えている。一般的に見ればフツウでなく、さぞかし辛いこともあるだろうと思うような状況設定だ。

ところが、優子はウソをついている様子ではない。となると、私としては、物語がこれからまともな展開をするのか心配になる。この小説が、作家の思いつきの面白さだけで底が浅く、読書の時間を浪費するだけではないかという心配だった。

 

5人の父母の関係で、優子が17歳になるまで4回も苗字が変わったというのは、フツウの実生活にはありえないような筋立てだろう。作家は、それを2度目の母「梨花さん」の個性的な生き様を描くことでカバーしている。

梨花さんは、2度目の再婚相手の森宮さんに優子を託して森宮さんとは離婚してしまう。その後は、これまでと違い全く連絡が途絶えてしまう。

この間の事情は物語の最終章になって明かされる。そこで語られる優子に対する梨花さんの思いは、そういう人物がいてもよいかもと、妙に納得させられてしまう。

 

物語は3人目の父親「森宮さん」と高校生の優子が織り成す日常生活が中心になってる。若いのに(優子とは20歳の年令差)懸命に父親役をする森宮さんと優子との会話は軽妙だ。

 

ムリ筋の設定は、作家の力量が試されるところだろうが、最後まで読んで私の心配は杞憂に終わったと言っていい。作家の得意とする青春小説に、ユニークな1冊が加わったと思う。このままドラマ化しても、中高生には受けそうな雰囲気があった。

 

あえて言えば、ジジイの私には、世間はそんなんではないとかなんとか、多少の突っ込みどころがあってる読んでるのだが、優子にイジワルな女子高生以外は、悪人が登場しない良質のエンタテイメントで面白かった。

author:u-junpei, category:読評, 18:18
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