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読評 「本のエンドロール」(安藤祐介 著)

 

「エンドロール」といえば、映画などで最後に流れる出演者や制作者・協力者などの字幕をいう。

本には、著者が「あとがき」で編集者たちの名をあげて出版の謝意を表してることはある。それ以外は、「奥付」に発行所・印刷所・製本所名があっても、具体的な職掌の担当者は書かれていない。そういうことでは、本にはエンドロールはない。

 

それなのに、この小説が「本のエンドロール」という題名なのは、本を作っている裏方たちを描いて、いわば「お仕事小説」だからだろう。

もっとも、この本では、最後になる見開きの2ページで、実際に出版印刷製本に携わった各分野の35名を「STAFF」として紹介し、エンドロールの面目を施してはいる。

 

この小説では、本の出版業とその背後を支える印刷業は、電子書籍の登場でかつての盛況はなくなり、新時代の中で衰亡していく予感がある。それを、印刷会社の営業で働く主人公をはじめ、いわば本好きの連中が、危機感を持ちながら、それぞれの仕事に励む姿や家庭を描く。それはいわば、それそれが働くことの意味を問うことでもある。

 

福沢諭吉は、「世の中で一番楽しくて立派な事は、一生涯を貫く仕事を持つと云う事です」という。いわば天職に携わる幸福を説いている。だが、これは私の天職ですと胸を張る人は、仕事人の割合ではどのくらいだろうか。私は特別な仕事に就いている人以外は、それほど多いとは思えないのだが・・・。

 

人々が働くのは、たいていは金を得るためで、それは当然ながら非難することではない。福沢諭吉風に言えば、そこから一歩踏み込んだところに、たとえば仕事を通した喜びが湧いてくれば、それは仮に天職でなくとも、十分に価値ある人生ではなかろうか。

 

この小説は私にそんな思いにさせた。それでいうなら、私のような老人ではなく、これから生きる若者に読んで欲しいと思う1冊だった。

author:u-junpei, category:読評, 23:32
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