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読評 「これなら読める! くずし字・古文書入門」(小林正博 著)

 

タイトルに騙されてしまった、というのが読み終えた直後の実感。

 

石仏の調査をしていると、文字が流麗な草書体(?)で刻まれているのがある。その方面の知識がない私には、ほとんど読み取ることが出来ない。歌碑などはそのような文字で刻まれたものが多い。

当該物が公私の調査資料などに載っていれば、それを参考にできるが、客観的にそれが正しい解読かどうかは分からない。そうした時には、昔の人が書いた文字を勉強したいとか、古文書などがすらすら読めたら素敵だろうと思ったりする。だが、そう思うのも一時の願望で、ついつい心の中にしまわれてしまっている。

 

それが、新聞の本の広告で「古文書入門」とあるのを見た。新書版で安かったこともあって、実物を確かめようともせず、ネットで注文したのは、上のような状況があったのが原因だ。

 

この本の始めの方では、まず「ひらがな」の字体を覚えるようになっている。その「ひらがな」は、昔の「いろは数え歌」順と現在の「あいうえお」順とで、2度も掲載している。その結果、1つの「ひらがな」文字には、字母となっているのが複数あるのだが、その表示は重複されていて、ときにはそれぞれに分散されてしまっている。したがって、どちらか1つの方法でまとめてあった方が、あとで文字を確認するにも見易かったろう。

 

また、『ひらがなはもともと漢字をくずしてできています』とし、「ひらがな」の元となった「字母」との組み合わせが載せられている。

その「ひらがな」も昔の字体であるから、漢字を崩して書く手順は、知識として必要と思われる。だが、この本では、どう「崩し」て書いてるのか、書き順が全く説明されていないので、視覚的にも覚えるのが難しい。私のように、「くずし字」のイロハも知らず、古文書解読の入門書だと思って手に取った者は、困惑するに違いない。

 

著者は「古文書解読検定協会」の代表をしている。この本も受験用になるように、そうした立場から書かれたようだ。ところが、教える側の指導者というのは、その知識が当然で当たり前であったりすると、初心者がどこでつまずいているのか、得てして分からなかったりする。

 

あえて言えば、著者は入門書のつもりだろうが、初心者にとっては、説明が足らなくて入門書にならないこともあるのだ。この本で「くずし字」の書き順が無視されているのは、まさにそれであろう。

 

この本では、明治時代の小学生が学んだ教科書などを、初心者にとって古文書の入門にふさわしいとして使っている。だが、当時の教師は、「読み書き」を教えるのに、くずし字なども、黒板などに手本を書いて見せたに違いない。

子どもが使ったのだから、それゆえ易しいわけではあるまいと思う。

 

私は、古文書解読検定がどの程度のレベルを要求されているのか知らない。だが、著者がいうほどには、この本を読んだくらいでは、合格できるとは思えない。少なくとも、私は身についていない自覚がある。

 

そう思って改めて帯を見ると、『あなたの くずし字の知識が確実に レベルアップする一冊』というコピーがある。

「くずし字」の知識がなければ、そもそもレベルアップなどありえないはず。

つまりは、この本は入門書とうたっているが、ズブの素人のための入門書というより、『くずし字を多少でも学んだ者が、さらに理解を深めるための入門書』というのが正解なのだろう。

author:u-junpei, category:読評, 00:11
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