RSS | ATOM | SEARCH
読評 「つまをめとらば」(青山文平 著)

 

未体験のはずだが、過去に同じような体験をしたことがある感覚をデジャブという。前にもこんな風景を見たことがある気がするなどの、いわば既視感がそれだ。

 

私は、20年程前だが、一人で山歩きしていた足利の猪子峠で、この経験をしたのを鮮明に覚えている。峠にあった2本並んだ巨木の特異なたたずまいや、その下の小さな祠にも見覚えがある気がした。幼い頃、確かにここに来たことがあると実感し、とても懐かしく感じたのだ。

もちろん、初めてきた場所であるし、理性ではありえないと分かっていたが、その感覚を不思議に思った。もっとも、私に霊感などがあるはずもなく、そんな経験は以後はない。

 

ところが、たまたま行った書店で、「つまをめとらば」の新刊になった文庫本を目にした。手に取った感じは、既に読んでいるような気がした。表紙絵も覚えているような・・・。だが、どんな内容だったかはよく思い出せない。

 

読んでいたのに新たに買うのはもったいない。そこで、図書館に問い合わせたら、2015年発刊の単行本を借り出すことができた。

2015年と現在はわずか3年間だ。いくらなんでも、青山文平の小説を読んだ記憶くらいは残っているだろうに・・・読んでいて忘れているなら、ボケを疑った方が良い。

 

そんなわけで、この本を読む動機は、いわばデジャブというか、既視感ならぬ『既読感』を確かめるためにあった。

 

この本は、6つの短編で構成されている。これらを読むと、作家が江戸後期の武家社会の事情や描写に巧みであり、この小説で直木賞(154回、2015年)を受賞したことも頷けた。つまり、ベテランが糸を紡いでいるような、肩がこらずに安心して読める小説だった。

もっとも、これは短編集であるせいか、どの作品にも最後に「落ち」があるようなユーモア感が漂うのは、彼の作風なのかもしれない。

 

さて、私の『既読感』はどうしたことだろう。読んだことがあるようなないような・・・まあ細かなところは覚えていないのだから、年寄り耄碌の2度読みであろうと、楽しめたのだからよしとしよう。

author:u-junpei, category:読評, 19:19
comments(0), trackbacks(0), - -
Comment









Trackback
url: http://blog.kiriume.com/trackback/1223510