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「野菊の墓」の野菊とは?

 

伊藤左千夫「野菊の墓」に出てくる野菊は、「ノギク」という名の菊はないので、物好きたちの従来の検証では、いわゆる野菊であるカントウヨメナ『関東嫁菜)・ユウガギク(柚香菊)・ノコンギク(野紺菊)に集約されているようだ。

ところが、これらの「野菊」は皆同じようで、どこが違うのだというほど良く似ている。

 

従来の分類では、カントウヨメナやユウガギクはキク科ヨメナ属、ノコンギクはキク科シオン属に分類されていたが、最近のAPG分類靴任蓮△い鼎譴皀轡ン属に分類されているという。

ネットで、これらの花の画像を見比べても、個体差や地域差があるのか、いろいろな画像があり混乱してしまう。区別方法は、葉がどうの、冠毛がどうのと、いろいろ言われているが、ちゃんと間違いなく判別するには、どうやらシロウトには難しいようだ。

 

そこで、学問的にはともかく、小説の設定に沿って判定することになろう。最初に野菊が出てくるのは次のような場面で、正夫が道端に咲いている野菊を採る。

 

『・・・両側の田についているところは露にしとしとに濡れて、野菊がよろよろと咲いている・・・』

 

つまりは、この野菊は湿性地に咲いていることを理由に、その適性があるカントウヨメナやユウガギクだとする者が多い。

 

ところが、私は、むしろ乾いた土地に適性があるという、ノコンギクであるような気がしてならない。

理由は二つある。

まず、正夫は民子を『野菊のような人だ』としているが、その民子は次のように描写されている。

 

『真に民子は野菊のような児であった。民子は全くの田舎ではあったが、決して粗野ではなかった。可憐で優しくて、そうして品格があった。厭味とか憎気とかという所は爪の垢ほどもなかった。どう見ても野菊の風だった。』

 

ここでは、「品格」という言葉に注目したい。少なくとも『・・・よろよろと咲いている』イメージではない。「よろよろ」と表現したのは、朝露に濡れていたからだと思われる。

 

次に、物語の最後のシーンは民子の墓だが、その墓は民子の家の裏門を出て、向かった松林の片すみの「雑木の森」にある。

いわば、山すそのような高台の場所にあるように思われ、少なくとも湿地ではなかろう。

正夫は墓のある周りを見渡し、踏まれたような野菊が咲いていることを知る。そして、7日間通い、その野菊を民子の墓の周囲一面に植える。

 

これらの状況を検証すると、カントウヨメナやユウガギクではなく、山野に広く適性があるノコンギクが相応しく思われる。「野にあって紺色をした菊」という意味だが、私は他の野菊以上に可憐な品格を感じる。

 

上の画像は、我が家に咲いていたもので、私は今年初めて確認した。

これまでは、この菊の前には通りに面して、夏以来オシロイバナ(夕化粧)が茂り、植え込みに山茶花の下枝も這っていたので、その奥に菊が生えているさえ知らなかった。

西日しか当たらないせいか、背丈が低く花も5,6個くらいしか咲いていないが、細長い花弁の紫色は、はっとするほど美しい。

 

私は、この菊の花を見たときに、なぜか「野菊の墓」を思い出した。改めて読んでみると、正夫15歳と民子17歳の青春が胸に迫ってきて、思わずこみあげるものがあった。

時代を越えても、若いというのは良いものだ。たとえ、それがほろ苦いものであったも・・・

 

ちなみに、私は画像の菊を、ノコンギクと同定している。自然に生えた野菊ではなく、花弁が長いので栽培種かもしれない。

author:u-junpei, category:雑記, 20:30
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