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読評 「学校を変える いじめの科学」(和久田 学 著)

 

「科学」というと、いわゆる「自然科学」がイメージされる。それゆえ、当方に何の準備もなく、「いじめの科学」というタイトルが目に飛び込んで来て、おもわず手に取った。何で「いじめ」と「科学」が結びつくのだという素朴な疑問からだった。

 

ふだん子ども相手の仕事をしているので、「いじめ」には関心がある。

かつて、どこかの教育長が、『いじめは、加害者が悪いのはもちろんだが、いじめられる子どもの方にも問題がある』と言ったことがある。事実、そういうこともあるかもしれない。

 

おそらく、こうした考えは彼の経験則から述べられたものだろう。だから、そのような人は、いじめの解決にも自分の経験則で対応しようとするに違いない。

だが、この考えを前提にすると、いじめは学校から絶対になくならない。経験そのものに個人差があり、各人の経験則で個別対応するのはむしろ危険だ。過去の経験は、意識的にしろ無意識にしろ脚色があったりして、それでは加害者・被害者双方を納得させられない。状況に応じた対応策・解決策を導くことは困難だ。

 

いじめは100%加害者が悪い。その上で、加害者の行為の原因と対策、被害者が重大事態(自殺・不登校)に陥ることのない対応を見つけなければならない。その際には、いじめの現場にいる多数の傍観者こそが解決の糸口になるだろう。というのがこの本の主題であった。このところは、私も大いに共感できる。

 

そのためには、「いじめ対策プログラム」を科学の知見で開発するのが必要だ。それによって誰もが共通認識を持つことができるからだ。欧米ではこうした研究が進み、プログラムも開発されているという。

この本ではそうしたプログラムの具体的内容を詳しく紹介していないのが物足りなかった。もっとも、欧米の研究が即日本に適用できるとは著者も考えていない。

 

私がこの本で関心を持ったのは、「学校風土」という問題だった。最近、神戸の小学校で教師が教師を苛める事件が公になった。これはマスコミ取り上げられ、大騒ぎになっているが、教師同士間の苛めは珍しいものではないようだ。5〜6人に1人は何らかの形で苛められた経験があるという調査がネットにあげられている。

まあ、教師だからといって素晴らしい大人だとは言えない。悪いことがあれば、子どもに対しての影響(教師や大人への失望)はダメージが大きいに違いない。そうしたことでは、いじめに限らず学校風土の良し悪しは大事な視点だろう。

 

2011年に起きた大津中2自殺事件を契機にして、おそらく学校や教育委員会の保身からの、いじめの事実の隠蔽が問題になり、2013年に「いじめ防止対策推進法」が制定された。そこでは従来曖昧だった「いじめ」を定義をし、いじめ防止対策を学校や行政に求めている。

 

そのせいもあろうか、文科省発表によると、平成30年度のいじめ認知件数は54万4千件で過去最多となった。特に小学校での認知件数が急増していて、1000人あたり66件にのぼっているという(2019.10.17産経新聞)

 

この本は、2019年4月発刊なので、この文科省発表前だが、著者や彼のいう対策プログラムはこの認知件数にどう反応するのだろうか。学校風土という視点から、私の個人的な感想は、残念ながら、かなりマイナス思考になっている。

author:u-junpei, category:読評, 21:42
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