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読評 「極夜行前」(角幡唯介 著)

 

前回取り上げた「極夜行」は2018.2刊。今回の「極夜行前」は2019.2刊で、内容はタイトルの通り、極夜探検の準備やそれに費やした、前後3回に及ぶ旅のあれこれになっている。したがって、著者の探検行の時系列はタイトル通り「極夜行前」→「極夜行」となる。

 

時系列通りに読むなら、探検の背景が理解し易いだろう。例えば、「極夜行」では働き手として一人前になった犬と一緒に橇を挽いて行くのだが、「前」では、訓練前の犬との葛藤が描かれていて興味深い。

 

また、「極夜行」では旅の開始直後のブリザードで、天文観測の六分儀を失ってしまう。その観測器は現在位置を知るのに準備したもので、「前」では準備旅で習熟し改良が加えられた様子が描かれている。したがって、その喪失がどんな意味を持つか、「前」を読んでいると読者にも切実に分かる。

 

「極夜行」実施前に1年間の空白がある。これは旅券切れによる国外退去命令を受けたからだが、「前」にはその経緯が詳しい。

再入国には3年と最初に警察から伝えられたときの、著者の怒りと失望が伝わる。

 

「前」の最後は、著者が極夜行本番のためにデポした食料が、白熊に荒らされたという連絡が入ったところで終わる。これはカヤックで海伝いに運ぶ途中、海象(セイウチ)に襲われ死ぬ寸前で逃れたり、氷海が開けなかったり、テント泊中にカヤックが流されたりがあってようやくデポした、極夜行の旅の成否に関わるものだ。

読者には、著者が呆然としている様子がありありと目に浮かび、「極夜行」を読んでいない読者は、ぜひ続きを読んでみたいと思うだろう。

 

「前」を読むと、著者がこの探検行にGPSを携行しないという理由も納得できる。その上で「極夜行」を読むと読者には合点することが多いかもしれない。

だが、私のように「極夜行」を読んだ後に「前」を読んでも、なるほどそういうことだったのかと分かるのも面白かった。

author:u-junpei, category:読評, 17:30
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