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読評 「空白の五マイル」(角幡唯介 著)

 

著者の作品にはまってしまったようで、このところ続いて4作目になる。かつて若い頃は登山小説とかを好んで読んだ時期があるが、老齢にもなって、自分とは縁遠い冒険物のノンフィクションを読むとは思っても見なかった。まあ、続けて読んでいるくらいだから、自分の歳を忘れるほどに面白い。

 

どう面白いかというと、ただ単に著者自身の冒険行動をノンフィクションとして語るだけではなく、探検場所の歴史背景や事実、そこに生きた、あるいは今も生きている人物の描写=生き様などを、活写するのに巧みな点だ。

 

著者がかつて朝日新聞の記者をした経験があり、取材能力や事実を適切に記事にする=ノンフィクションに描くセンスがあるだけでなく、一流の小説家のように、読者を冒険世界に引き込む文才や、読者を楽しませるユーモアのセンスにも恵まれていると思う。

 

この本は副題に、『チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』とあるように、著者が人跡未踏の空白区に挑んだ、2002〜2003年の探検と、2009年冬の単独行からなっている。どちらの回もほとんど絶体絶命の状況に遭遇している。それでもなおかつ、その後の『極夜行』にもあった大ピンチも凌ぎ生還しているところを見ると、体力プラスよほどの強運の持ち主なのかもしれない。

 

私はチベットの秘境にツアンポーという峡谷があること自体を知らなかったが、表紙絵の写真や中綴じにも著者が撮った写真が数ページあり、グランドキャニオンなども足元に及ばないという景観に興味をひかれた。写真集でもあったら欲しいくらいだ。

 

また、この本には、チベットの民に伝わる伝説の理想郷(ベユル・ペマコ)に通じているような、500人くらい収容できそうな巨大な洞窟を発見(表紙写真は洞窟の中から峡谷を写したもの)したシーンがある。私はワクワクしながら読んで、昔、チベットの民は外敵に襲われて逃げ込んだこともあろうかと、しばし空想にひたった。

 

ちなみに、本作品は2010年第8回開高健ノンフィクション賞を受賞している。

author:u-junpei, category:読評, 19:19
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