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読評 「雪男は向こうからやって来た」(角幡唯介 著)

 

著名な登山家の高橋好輝を隊長とする雪男捜索隊は、1998、2003、2008年の3回実施され、著者は3回目に参加している。

本書はその様子と、事前にイエティ(雪男)と関係した人物(登山家の芳野清彦や田部井淳子などの目撃者)たちに、捜索に出かける事前に取材したことなどをドキュメンタリーにしたもの。

 

UFOや幽霊がそうであるように、実際に見たりした経験がないと、何かの見間違いだろうとか否定的に捉えるだろう(私もそのような1人だが)、それはイエティでも異ならない。

ところが、実際に体験したりすると、他人がどう言おうと本人はその存在を固く信じるし、なんとしても存在を証明しようとする者もいる。

残留日本兵小野田寛郎少尉をルバング島で発見し、日本に連れもどした冒険家鈴木紀夫もその1人で、最初に目撃したヒマラヤのコーネポン谷を全6回に亘り探索し、最期は雪崩にあって死んでいる。

いわば、イエティに完全にはまってしまう人もいる。私もその気持ちは分からないでもない。

 

著者の参加した第3回捜索隊は有力な手がかりとして、イエティと思われる足跡を撮影している。隊長はじめそれ以前の回に参加した隊員らは、足跡は何度も見ているので、もう足跡はさして重要なモノとは思っていない。だが、プレスの取材を受け報道されると、イエティの足跡の写真は世界的なセンセーションになった。

 

だが、他の動物のものだといわれれば、著者はそれを完全否定できないと考えている。いわば、著者は合理的思考の持ち主で、イエティの捜索隊に参加しているものの、存在の真偽には最後まで疑問符を抱いていた。

 

それゆえ「存在しない」という証明は、悪魔の証明で不可能だろうが、「存在する」という証明ならイエティそのものを映像に撮ればよい。捜索隊の目的もそれだったが失敗に終わっている。

ならばということで、著者は隊が引き上げる際に、1人現地に残り、20日間捜索テントでひたすら出現を待って証拠を撮ろうとした。だが、足跡は2度にわたり出現したが、いずれも他の動物と分かるものだった。結局、最後までイエティは出てこなかった。

 

ところが、この本のタイトルは「雪男は向こうからやって来た」という。私はタイトルから、『雪男が実際にいた』のだと思い、興味津々で一挙に最後まで読んでしまった。まあ、騙されたのだが、読後感は全く悪くない。

 

タイトルになったワードは、本書327ページに書かれている。まさに著者が本書を書いた意図もそこに集約されるのだろうが、私がその部分を書き抜いて載せてしまっては、これから読む者の興味を半減しかねないだろう。それゆえ、これは秘密にしておこう。

 

ちなみに、本書が出版された2011年以後にも雪男捜索隊が組まれたか調べてみたが、2008年で最後になっている。2017年12月にアメリカのイエティ研究チームが、イギリス王立協会紀要に発表しているのが興味深い。それでは、博物館などに保管されているイエティ関連物のDNAを調べたという。結果を言うと、イエティとされるのは「クマ」のものだった。

 

しかし、UFOを見た者は、それをUFOだというだろう。もしかしたら、イエティを見たという人や捜索する人も、これからも出てくるかもしれない。

author:u-junpei, category:読評, 22:22
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