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読評 「本統の賢治と本当の露」(鈴木 守 著)

 

本を読んでみようという動機は、たいていは新聞などの書評だったり、書店や図書館でたまたま手に取ったりしてだが、この本への道筋は変わっていた。

 

NHKラジオの語学番組に、「Enjoy Simple English」というのがある。その月曜日のシリーズは、ストリートパフォーマーの日本人とアメリカ人の2人組みが日本全国を旅して回る。今年の2月10日の回は"Morioka & Tono"で、岩手県の盛岡で椀子蕎麦に挑戦し、その後、日本人のアキオが河童の夢を見て、遠野に行くという話だった。

 

私が興味を持ったのは、その話の中で出てくる遠野の「五百羅漢」だった。私は埼玉県の寄居にある羅漢山をハイキングしたことがあり、そこの五百羅漢には強い印象があった。

http://blog.kiriume.com/?eid=1223210

 

ネットで検索してみると、遠野の五百羅漢は線彫りらしく、表面が苔生し、何が彫られているさえ分からないほどの状況で、寄居の五百羅漢像とは比べくもないものでガッカリした。

 

その検索中に著者のブログに当たり、宮沢賢治の周囲に悪女伝説というのがあるのを初めて知った。高瀬露という女性が嫌がる賢治にストーカーのように付きまとったというのだ。

 

著者は、悪女説は捏造されたものであり、彼女の人権上、名誉回復する必要があると主張する。ところが、宮沢賢治学会では会員でもある著者の言い分は一顧だにもせず、むしろ現在は著者を排除する動きに出ているらしい。

 

高瀬露という実名が公表されたのは、ある有名出版社が賢治の手紙の下書きを、露の死後、新発見として露宛のものと断定して出版してからのようだ。それまでは「T」として、本名は知る人ぞ知るということだったようだ。

 

私は宮沢賢治の作品は、誰でも知っているような有名なものは読んでいるが、フアンというほどでもない。だから、賢治に付きまとう女性がいたなどとは知らなかった。

だが、悪女伝説がわざと作られたもの、いわば捏造で、それを実証しようという著者の行動には興味を持った。それがこの本を読む動機となった。

 

著者は、「仮説検証型研究」という手法で、反証がない限り、彼の仮説を限定付きの「真実」としている。その綿密な調査は十数年にわたり、聞き取りや現地調査だけでなく、当時の天候等にまで及んでいる。

そうした中でなされる考察は、宮沢賢治自身の人間性にまで及ぶことになり、これまでの偶像化された賢治像が覆されてしまうことにもなる。著者は賢治がダブルスタンダードだったという言葉さえ使っている。

宮沢賢治学会の幹部たちが著者の存在を迷惑に思うのも、彼等の保身ゆえかも知れない・・・それが私の読後感だった。

author:u-junpei, category:読評, 20:02
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